H・N・メディックにおける子育て支援

「子育て支援」といっても具体的な支援の内容を想像するのは難しいのではないでしょうか。 当法人での個別の支援例について、同じく子育て中の当院理事長遠藤陶子先生との会談形式で紹介します。

ママさん医師編
 北海道大学内科IIからの派遣医師として、妊娠期間中も当院の第一線で活躍してくださった江口みな先生に、子育てと女性医師のキャリアについてお話頂きました。
1.妊娠期間のワークシェアリング
2.この機会を利用して血管診察を学ぶ!


遠藤陶子理事長(左)、江口みな先生(右)

ママさん医師編 ~ 江口みな先生

1.妊娠期間のワークシェアリング


遠藤:先生には第二子出産前の期間をH・N・メディックで働いて過ごして頂きました。この数ヶ月、いかがでしたか?
江口:働く機会を得られたことに感謝しています。 外来や病棟を中心とした大学の業務とは異なり、H・N・メディックでは透析に関わる検査や血管治療を経験することができました。 腎臓を診る者として多岐にわたる経験を積みたいと考える中で、非常に有意義な時間を過ごすことができました。
遠藤:よかったです!私にとっては、先生に当院で働いていただくことは一つの新たなプロジェクトでした。 女性医師が妊娠期・育児期にも無理なく働ければ、社会にとってみれば「患者さんを診ることができる医師の総数」は増えますよね。
江口:多くの医師が診療に携わることで、臨床のレベルは上がることも実感しています。
遠藤:そして、いつも過負荷になりがちな医師の働き方を見直して余裕をもった現場を作ったほうが、 診療のレベルはもっと上がると少なくとも私個人は思っているんです。
江口:妊娠だけに限らず、持病のある方や怪我をすることもあるので、 身体を大切にしながら第一線の医療現場に身をおける余裕のある環境づくりは重要だと思います。
遠藤:余裕を持った目線で集中できれば、当然学習効果は高いですよね。 プロフェッショナルとしての「何か」って、そういう時間に身につくと思うんです。 だから、むしろ妊娠・育児期間は女性医師にとってチャンスだとすら思います。 そのサポートができればうれしいなと思っていました。
江口:妊娠初期は見た目に分かりにくい体調不良があり気持ちに余裕が持てないことも多く、 上の子の育児もあったことからゆっくり身体を休める機会もなかなかとれませんでした。 今回、北大とH・N・メディックのワークシェアリングという形で本当にたくさんのサポートをいただきました。 子育てで起こるイレギュラーなイベント(発熱など)に対しても、遠藤先生を筆頭にスタッフ全員が快く対応してくださって有難かったです。
遠藤:そう言ってくださって嬉しいです。先生は働いていたほうがすこやかなタイプかな?
江口:そうですね。牛歩でもよいので働いて前に進んでいきたいと考えています。 保育園などを利用すれば仕事ができるので、やらないのはもったいないかな、という感覚です。
遠藤:とてもよくわかります。私もここ5年で2回出産しましたが、同じ思いがありました。
江口:個人的には前回の妊娠で産前より産後のほうが体調を崩しやすかったので、 今回の妊娠でも産前ぎりぎりまで働くという希望が通って有難かったです。
遠藤:もともと北大から出張医師として来て頂いた先生から妊娠の報告を受けたときのことを憶えていますよ。 コロナ禍の最中に妊娠したことで、就労の場所が限定されてしまうかもね、という話をしましたね。 先生に「…どうしたい?」と聞いたら、「どんな形でもいいから、働いていたいです!」と先生は私の目を見て言ったんです。
江口:言いましたね(笑)。本当にそう思っていました。
遠藤:よしと思って、即日、大学に連絡をしました。 「江口先生をください!」みたいな感じで、北大病院内科IIの渥美教授にお話しました。 教授も江口先生が働く機会を得たことを喜んでくださっていましたよ。
江口:ほんとうですか!嬉しいです。
遠藤:女性医師その人のキャリアを実現しつつ、慢性的な人手不足に悩む医療現場でワークシェアリングを実現できたのは大きいです。 先生は患者さんからの信頼も既に厚かったですし、医療を提供する側の懐が深くなった感覚があります。
江口:ありがとうございます。


2.この機会を利用して血管診察を学ぶ!


江口:PTA(シャント血管を風船で膨らませる手技)も沢山みられて勉強になりました。
遠藤:妊婦さんはレントゲン室には入れないので、先生には操作室でレバーを握ってもらってオペレーションをお願いすることが多かったですが、生き生きしていましたね。
江口:もともと手を動かすことは好きで、PTAについてはこれまでも学びたいとは考えていたのですが、なかなか機会がありませんでした。今回、妊娠中だったのでレントゲン室には入れませんでしたが、手技前後の血管を表在から触ることはできました。自分もいつか実践することも想定しながら、血管の評価や手技のアプローチの方法について上司の先生の意見を伺ったりと学ぶことはとても多かったです。
遠藤:見学の後には実践も待っていますから、習得には時間がかかりますよね。
江口:出産までの3ヶ月間でできる限りの知識を吸収しようと意気込んで見学させてもらいました。先生方が一生懸命シャントやグラフトを守ろう、生かそうとしている診療を間近で見ることができて、とても勉強になりました。
遠藤:操作室のモニターにかぶりついて血管造影を見ていましたよね。隣のレントゲン室が見えるアクリル窓と交互に先生の目線が行き来して。先生が身を乗り出して「これ…いけるんじゃないですか」なんて緊張感を持って言っている場面もよく目にしました。
江口:とても、興味深かったです。熱中してしまいました。
遠藤:大きなお腹の先生が、真剣な面持ちで診療に身を投じてくださっているあの光景を見るのも私は大好きでした。シャント手術の見学もしてくれましたね。
江口:遠藤先生や飯田先生の手術には、大きなお腹を抱えて常に特等席で見学させてもらえました。初期研修医以来、シャント手術は見学したこともなかったので良い経験になりました。
遠藤:普段見ている患者さんのシャントトラブルを、同じ建物の中で同じ医者が最初から最後まで診る、手をくだす、というところまで出来ればいいなって思っているんです。
江口:それがとても理想的ですし、患者さんにとっても一番良い形だと思います。
遠藤:うれしいです。では最後に何かひとこと。
江口:私が卒業した世代では、4割近くが女性でした。昔と比べて働く女性が増えている中で、妊娠出産と就労機会のバランスをとらなければならないというテーマが必然的に生まてくると思います。そうしたときにもしっかり働ける環境がある、そのサポートがある施設の存在は社会にとって大事ですし、当事者個人としてもどんどん利用していきたいと思います。
遠藤:労使の観点からも、妊娠・出産で職場を空けることで「ごめんなさい」という気持ちを抱かせるのは良くないと思っていました。あとは、妊婦だからといって職場のマンパワーとして自分をノーカウントにされるというのもプロ意識が高い人ほど辛いんじゃないかな。一方で、そのマンパワーをカバーする側からすると、そうすんなりと納得することが出来ないのもわかります。
江口:そうですよね。穴をあける本人からしてみれば、”申し訳ない”と思ってしまいます。
遠藤:これからは、親世代の介護に時間が必要になる社会人は増えると思います。とすると、職場がカバーすべきは、もはや女性の妊娠出産だけじゃなくなってくるはずです。家族の一員であることと働き手であることを両立していく中で、皆がお互いの「カバーしあう」経験を持ち寄ったときに何ができるかということを考えていきたいです。
江口:まさにワークシェアですね。妊娠出産をテーマにした女性医師の労働環境改善が、ゆくゆくは男性医師も含めた人間的な労働改善改善につながっていくのだと思います。
遠藤:そもそも人間社会というのは巨大な互助会システムだとおもいます。なにごとも、お互い様、なんです。当法人は子育て世代が多く活躍してくれていますよ。
江口:医師だけでなく、コ・メディカルの方も子育て中の方が多いですね。
遠藤:「医師の子育て」だけを特別扱いするわけではなく、すべての家族のあり方を尊重していきたいなと思っているんです。まさしく、ゆりかごから墓場までの精神で。そして、先生にはここで私からプレゼントが。
江口:ええっ。ありがとうございます!
遠藤:ムーミンの子供服の詰め合わせです。フィンランドに「ベイビーボックス」というものがあるんですが…
江口:ファーストベイビーボックスですね。知っています!フィンランドで子供を産んだら、服や育児用品が一通り入ったボックスが送られていくやつですよね…!
遠藤:よくご存じ!昔、フィンランド乳幼児死亡率を下げようという国策を成功させたプロジェクトとのことです。何の準備もなく出産しても、赤ちゃんが生きていけるような装備が全部入っているという代物なのですが、その「いますぐ必要なものを有無をいわさず支給して民を救う」的な考え方に感銘をうけて。今回先生にお送りするのは、その幼児バージョンですが、フィンランドからH・N・メディックに送って頂いています。
江口:2−3才くらいまで着られそうなものが一杯!早速上の子に着せます!
遠藤:当院で1年前からはじめている子育て支援で、法人で出産した人にはお祝いに贈っています。
江口:ありがとうございます。大切に使わせていただきます。
遠藤:ご協力ありがとうございました。では、まずご無事の出産をお祈りして。今後も頑張ってください!
江口:頑張ります!